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遺伝検査

遺伝性疾患とは?

遺伝性疾患とは、個人の遺伝子に存在する異常(変異)が原因で発症する疾患の総称です。
この種の疾患は、患者の遺伝子型やその他の遺伝的要因によって影響を受けます。

遺伝性疾患は、さまざまなタイプに分類されますが、その主なカテゴリーには以下のようなものがあります。

●単一遺伝子疾患 (Monogenic Disorder)

単一遺伝子疾患は、単一の遺伝子の変異が原因で引き起こされる疾患です。
このタイプの疾患は、一般的に遺伝子座に対する潜性(劣性)または顕性(優性)の遺伝パターンに従います。
例えば、フェニルケトン尿症や神経線維腫症1型などがあります。

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●多因子遺伝疾患 (Polygenic Disorder)

多因子遺伝疾患は、複数の遺伝子変異や環境要因が相互作用して引き起こされる疾患です。
その結果、発症のリスクは個人の遺伝的素因によって異なります。
例えば、2型糖尿病や高血圧などがあります。

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●リピート拡大疾患 (Repeat Expansion Diseases)

リピート拡大疾患は、遺伝子内の特定の領域でのDNAの繰り返し配列が異常に拡大することによって引き起こされる疾患です。
これにより、遺伝子の正常な機能が妨げられ、病気が発生します。
ハンチントン舞踏病や筋強直性ジストロフィーなどが含まれます。

●浸透性 (Permeability)

遺伝的浸透性は、ある遺伝的特性が個体の表現形質に与える影響の度合いを示します。
完全な浸透性の場合、遺伝子変異を持つすべての個体が対応する表現型を示しますが、不完全な浸透性の場合、その影響の度合いが個体毎に異なり、遺伝子変異を持つ個体の一部にしか現れないことがあります。

●VUS (Variant of Uncertain Significance)

VUSとは、遺伝子解析において特定の遺伝子変異の機能的または臨床的意義が検査段階では不明確であることを示す用語です。
このような変異は、疾患のリスクや診断に対する正確な情報を提供することが難しい場合があります。
また将来その評価が変わる可能性があり、長期のフォローが必要となります。


単一遺伝子疾患 (Monogenic Disorder)

単一遺伝子疾患は、個々の遺伝子の変異が原因で発症する疾患群です。
これらの疾患は、遺伝子座における遺伝的変異(塩基の欠失、置換、挿入などの突然変異)によって引き起こされ、通常は潜性(劣性)または顕性(優性)の遺伝パターンに従います。
潜性(劣性)の場合、対立遺伝子のいずれもが変異を持つ場合、変異による疾患を発症します。逆に対立遺伝子の片方が正常であれば、変異を有していても疾患を発症しません。
顕性(優性)の場合、一方の遺伝子が変異を持つだけで病気が引き起こされるため、片親が変異を持っているだけで子供に病気を引き継ぐことがあります。
単一遺伝子疾患は、遺伝子の機能的な喪失または変異によって生じるため、特定の機能の喪失や変化が身体の特定の部位や機能に影響を及ぼします。

単一遺伝子疾患は、その遺伝様式により3つに分類されます。


(1)常染色体顕性(優性)遺伝病

・・・常染色体上の対になった遺伝子の一方に異常があれば発病する

顕性(優性)遺伝では、異常な遺伝子の1つのコピー(対立遺伝子)が存在するだけで、疾患を発症します。
これは、顕性(優性)対立遺伝子が潜性(劣性)対立遺伝子に対して表現型が優位であることを意味します。

〔 表現型の発現 〕

顕性(優性)遺伝では、ヘテロ接合(Aa)およびホモ接合(AA)の両方で異常な表現型が現れます。
ここで「A」は異常な対立遺伝子、「a」は正常な対立遺伝子を表します。

〔 遺伝のパターン 〕

顕性(優性)遺伝性疾患は、親から子への遺伝が50%の確率で起こります。
これは、異常な対立遺伝子を持つ親(Aa)が子供にその対立遺伝子を伝える確率が50%であるためです。

〔 例 〕

ハンチントン病:
ハンチントン病は神経変性疾患で、CAGリピートの異常拡大を含む顕性(優性)遺伝子変異によって引き起こされます。
家族性高コレステロール血症:
LDL受容体遺伝子の変異により、コレステロール代謝が異常になり、高コレステロール血症を引き起こします。

(2)常染色体潜性(劣性)遺伝病

・・・常染色体上の対になった遺伝子の両方が異常であれば発病し、一方のみでは保因者となる

潜性(劣性)遺伝では、遺伝子の両方のコピー(対立遺伝子)に異常(変異)が存在する場合にのみ疾患が発症します。
これは、潜性(劣性)対立遺伝子が正常な対立遺伝子によって表現型が隠されることを意味します。

〔 表現型の発現 〕

劣性遺伝では、ホモ接合(aa)の場合にのみ異常な表現型が現れます。
ここで「a」は異常(変異)を持つ 対立遺伝子、「A」は正常な対立遺伝子を表します。
ヘテロ接合(Aa)では正常な表現型を示しますが、この個体はキャリア(保因者)と呼ばれ、異常遺伝子を次世代に伝える可能性があります。

〔 遺伝のパターン 〕

劣性遺伝性疾患は、両親がキャリア(保因者)である場合、子供が疾患を発症する確率は25%です。
これはキャリア同士の組み合わせ(Aa × Aa)では、25%がホモ接合(aa)となるためです。
また50%がキャリア(Aa)、25%が正常(AA)となります。

〔 例 〕

嚢胞性線維症:
CFTR遺伝子の変異により、粘液分泌が異常になり、肺や消化器系に深刻な問題を引き起こします。
フェニルケトン尿症(PKU):
PAH遺伝子の変異により、フェニルアラニンの代謝が障害され、知的障害や発育遅延を引き起こします。

(3)X染色体連鎖遺伝病

・・・性染色体であるX染色体上に異常がある

●性染色体に関連する遺伝:
単一遺伝子疾患は、性染色体(XおよびY染色体)に関連する場合もあります。
これらの疾患は、性別によって異なる遺伝パターンを示します。
●X連鎖潜性(劣性)遺伝:
X連鎖潜性(劣性)遺伝では、異常な(変異を持った)遺伝子がX染色体上に位置しています。
このタイプの疾患は男性においてより一般的に発症します。

〔 表現型の発現 〕

男性(XY)は1つのX染色体しか持っていません。そのため正常な対立遺伝子が無く、1つの異常な対立遺伝子(Xa)だけで疾患が発症します。
女性(XX)は2つのX染色体を持つため、異常な対立遺伝子が2つそろった場合に限り(XaXa)疾患を発症します。
異常な対立遺伝子を1つだけ持つ場合(XaX)はキャリア(保因者)となりますが、通常は症状を示しません。

〔 遺伝のパターン 〕

キャリア女性(XaX)と正常男性(XY)の間では、50%の確率で男児が疾患を持ち、50%の確率で女児がキャリアとなります。
疾患を持つ男性(XaY)と正常女性(XX)の間では、すべての女児がキャリアとなり、すべての男児は正常です。

〔 例 〕

血友病:
血液凝固因子の欠乏により、出血が止まりにくくなる疾患。
デュシェンヌ型筋ジストロフィー:
筋肉の進行性の衰えを引き起こす疾患。

顕性(優性)と潜性(劣性)の遺伝は、単一遺伝子疾患の発症において重要な概念です。
顕性(優性)遺伝では異常な遺伝子が1つでも疾患が発症し、潜性(劣性)遺伝では両方の遺伝子が異常である場合にのみ発症します。
これらの違いを理解することで、遺伝病のリスク評価や遺伝カウンセリング、治療法の開発における基礎が築かれます。


遺伝 or 突然変異

単一遺伝疾患の発症において、新規(de novo)の突然変異による発症と遺伝による発症のどちらが多いかは、疾患ごとに異なります。一般的には、遺伝による発症が多いとされています。

遺伝による発症の場合、患者は変異を持つ親から遺伝する可能性が高くなります。潜性(劣性)の遺伝疾患の場合、片親が変異を持っている場合でも子供が疾患を発症する可能性があります。一方、顕性(優性)の遺伝疾患の場合、片親が変異を持っている場合、子供が疾患を発症する可能性はさらに高くなります。

一方で、新規(de novo)の突然変異による発症もあります。新規の突然変異は、通常は親から受け継がれるわけではなく、むしろ個人の生殖細胞や胎児の発生中に生じる変異です。新規の突然変異によって生じた変異が原因で疾患が発症することがありますが、これらの疾患は通常は遺伝的に再現性が低いため、家族歴に基づいたリスクの評価が困難です。

したがって、多くの単一遺伝疾患は遺伝による発症が主であり、新規の突然変異による発症は比較的まれですが、特定の疾患や変異によって異なる場合があります。


疾患例

●軟骨無形成症 (Achondroplasia)
軟骨無形成症は、骨格の形態や成長に影響を与える軟骨の異常によって特徴付けられる遺伝性障害です。
これはFGFR3遺伝子の変異によって引き起こされます。この変異により、遺伝子の機能に異常を生じ、骨の成長が過度に抑制され、身長の矮小化や四肢の短縮などが生じます。
●デュシェンヌ型筋ジストロフィー (Duchenne Muscular Dystrophy、DMD)
筋ジストロフィーは、筋肉の変性と筋力の低下を特徴とする一連の障害を指します。
デュシェンヌ筋ジストロフィーは、X染色体上のDMD遺伝子の変異によって引き起こされます。この変異により、筋肉をサポートするタンパク質であるジストロフィンが不十分になり、筋肉の構造と機能に障害が生じます。
●ハンチントン病(Huntington's Disease、HD):
ハンチントン病は、中枢神経系の変性疾患であり、神経細胞の死滅が進行することで運動機能や認知機能に障害を引き起こします。
この疾患はHTT遺伝子の変異によって引き起こされ、顕性(優性)の遺伝パターンを示します。
●先天性多発性筋炎(Congenital Myasthenic Syndromes、CMS):
先天性多発性筋炎は、神経筋接合部の機能不全によって引き起こされる疾患群です。
これらの疾患は、神経伝達物質の放出や受容に関与する遺伝子の変異によって引き起こされます。
●フェニルケトン尿症(Phenylketonuria、PKU):
フェニルケトン尿症は、フェニルアラニン代謝の異常によって引き起こされる代謝性疾患です。
この疾患は、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ(PAH)酵素の欠陥によって引き起こされます。
●嚢胞性線維症(Cystic Fibrosis、CF)
嚢胞性線維症は、主に肺や膵臓、消化管などの器官に影響を及ぼす遺伝性の疾患です。この疾患は、CFTR遺伝子の変異によって引き起こされます。CFTR遺伝子は、塩素イオン(陰イオン)の輸送を調節するタンパク質をコードしており、その変異によって正常な塩素イオンの輸送が妨げられます。
CFの症状には、慢性的な呼吸器感染、肺機能の低下、消化管の問題(膵臓の機能不全や腸閉塞など)、体重増加の困難、塩分の排泄不全などが含まれます。この疾患は、潜性(劣性)の遺伝パターンを示し、両親が変異を持つ場合、子供がCFを発症する可能性があります。CFの診断は、遺伝子検査や臨床症状に基づいて行われ、早期発見と治療が重要です。
CFは、現在では対症療法や薬物療法などの進歩した治療法があり、患者の生活の質を改善することが可能です。しかし、この疾患は現在でも治癒する方法はなく、患者は生涯にわたって継続的な管理と治療を必要とします。

診断と治療

単一遺伝子疾患の診断は、家族歴の調査や遺伝子検査を通じて行われます。遺伝カウンセラーや臨床遺伝専門医の協力も重要です。治療法は疾患や症状によって異なりますが、症状の軽減や進行の抑制を目指すことが一般的です。例えば、物理療法や特定の薬物療法が行われることがあります。またPGT-Mにより、体外受精により作成した胚で変異の状態を調べて移植(妊娠)をすることが可能です。

単一遺伝子疾患は、次のような手順で発見されます:

no.1家族歴の調査
最初に、疾患が家族内でどのように広がっているかを調査します。特定の疾患が家族内で何世代にわたって伝播しているかを調べることが重要です。家族歴に基づいて、特徴的な遺伝的パターンが見つかることがあります。
no.2遺伝子解析と遺伝子マッピング
疾患の原因となる遺伝子を特定するために、遺伝子解析や遺伝子マッピングが行われます。これには、DNAシーケンシングや遺伝子マーカーを用いた解析が含まれます。特定の遺伝子の変異が特定の疾患と関連していることを特定することが目標です。
no.3遺伝カウンセリング
遺伝カウンセリングは、遺伝的リスクや遺伝子検査の結果に関連する情報を提供するプロセスです。これには、家族歴や遺伝的リスクの評価、検査の解釈、疾患のリスクおよび管理に関する情報が含まれます。
no.4機能解析
特定の遺伝子の変異が発見された場合、その遺伝子の機能がどのように影響を受けるかを理解するために機能解析が行われます。これには、in vitroやin vivoでの実験や、細胞や動物モデルを用いた解析が含まれます。
no.5臨床試験
特定の遺伝子の変異が特定の疾患と関連していることが確認された場合、その疾患の治療法や予防法を探るために臨床試験が行われることがあります。

以上の手順を経て、特定の遺伝子変異が特定の疾患と関連していることが確認され、その疾患の理解や治療法の開発に向けた研究が進められます。


最新の研究動向

単一遺伝子疾患の研究は、遺伝子編集技術の発展や遺伝子治療の新たな可能性など、革新的なアプローチによって進化しています。
これにより、遺伝的な原因を治療する新たな治療法の開発が期待されています。
また、直接疾患の原因を治療するのではなく、体外受精により作成した胚を調べて(PGT-M)、疾患の影響を受けない胚を選んで移植・妊娠することが可能です。

まとめ

単一遺伝子疾患は、個々の遺伝子の変異によって引き起こされる疾患であり、遺伝子解析や家族歴の調査を通じて診断されます。
治療法は疾患や症状によって異なりますが、症状の軽減や進行の抑制を目指すことが一般的です。最新の研究動向により、新たな治療法や治療戦略が開発され、患者の生活の質が向上することが期待されています。

[引用サイト]

https://www.invitra.com/en/monogenic-disorders/

https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/01-知っておきたい基礎知識/遺伝学/単一遺伝子疾患の遺伝?ruleredirectid=464

https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/24-その他のトピック/遺伝医学の一般原則/単一遺伝子の異常?ruleredirectid=465

多遺伝子性疾患: 遺伝的複雑性と生活習慣の深淵

多遺伝子性疾患は、複数の遺伝子が関与する遺伝学の中でも非常に興味深く複雑な分野です。
単一の遺伝子の変異が疾患を引き起こす単一遺伝子疾患とは異なり、多遺伝子性疾患は、多くの遺伝子変異が相互に作用して発症に寄与します。
本ページでは、生活習慣病である高血圧や糖尿病に焦点を当てつつ、ゲノムワイド関連解析(GWAS)、一塩基多型(SNP)、連鎖解析、メンデルランダム化といった先進的な遺伝学研究技術を詳しく解説します。

多遺伝子性疾患の理解

多遺伝子性疾患の一般的な例として、心血管疾患、糖尿病、肥満、うつ病や統合失調症などがあります。
これらの疾患は、遺伝的要因と環境的要因の両方が影響するため、多因子性とされています。
また遺伝的要因も単一遺伝子疾患と異なり、多くの遺伝子の累積効果によって引き起こされます。

生活習慣病: 高血圧と糖尿病

〔 高血圧 〕

高血圧は、動脈内の血圧が持続的に高い状態が続く慢性的な疾患です。これは、心臓発作や脳卒中などの心血管疾患の主要なリスク要因です。

遺伝的要因:
多くの遺伝子座が高血圧に関連しています。これらの遺伝子座には、腎臓のナトリウム処理、血管の緊張、レニン-アンジオテンシン系などの生理的プロセスを調節する遺伝子が含まれます。
環境的要因
塩分の多い食事、運動不足、ストレスなどの生活習慣が高血圧のリスクに大きく影響します。

〔 糖尿病 〕

糖尿病、特に2型糖尿病は、インスリン抵抗性やインスリン分泌不足による高血糖状態を特徴とする代謝性疾患です。

遺伝的要因
インスリン分泌やグルコース代謝に影響を与えるいくつかの遺伝子変異が特定されています。これらの遺伝子は、しばしば膵臓のβ細胞機能やインスリンシグナル伝達経路に関与しています。
環境的要因
食生活、肥満、運動不足は2型糖尿病の発症に重要な環境要因です。

一塩基多型(SNP)

〔 SNPとは何か? 〕

一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism, SNP)は、遺伝子の中で最も一般的な遺伝的変異の形式で、ゲノムの特定の位置におけるDNAを構成する単一の塩基(A、T、C、G)の違いを指します。ヒトゲノムには約30億塩基対のDNAが含まれており、その中でSNPが約1,000万箇所知られています。これらの変異は、個人間の遺伝的多様性を形成する重要な要素です。

●SNPの検出方法

SNPを検出するための技術は急速に進歩しています。一般的な方法には次のようなものがあります

①DNAシーケンシング
次世代シーケンシング(NGS)技術を使用して、大規模なゲノム全体のSNPを高速かつ正確に検出します。
②ジェノタイピングアレイ
特定のSNPをターゲットにしたアレイ技術を使用して、多数のSNPを一度に検出します。これらのアレイはコスト効率が高く、大規模な集団研究に適しています。
●SNPのデータベース

検出されたSNPは、データベースに登録しています。代表的なデータベースには以下のものがあります。

①dbSNP
NCBIが提供するSNPのデータベースで、数百万のSNP情報が収録されています。
②1000 Genomes Project
ヒトの遺伝的多様性を包括的にカバーするプロジェクトで、世界中の異なる集団から収集されたSNPデータが公開されています。

〔 SNPの分類 〕

SNPは、SNPのある場所の遺伝子機能に基づいて以下のように分類されます。

①コーディング領域SNP
●同義SNP(Synonymous SNP)
遺伝子がコードするアミノ酸配列に影響を与えない変異。コードするアミノ酸は、3塩基(コドン)で20種類のアミノ酸をコードします。そのため1つのアミノ酸をコードする塩基の組み合わせが複数ある物があります。たとえば、コドンGAAとGAGは両方ともグルタミン酸をコードします。そのため3番目の塩基がAからGに変異したとしても、同じアミノ酸がコードされます。そのためコードされるアミノ酸配列に違いはありません。
●非同義SNP(Nonsynonymous SNP)
遺伝子がコードするアミノ酸配列が変わる変異。非同義SNPは、さらにミスセンス変異(遺伝子がコードするアミノ酸が別のアミノ酸に変わる)とナンセンス変異(アミノ酸が停止コドンに変わり、コードされるアミノ酸配列の途中で終わる)に分けられます。
②非コーディング領域SNP

遺伝子の発現場所や時期などを調節する領域(プロモーターやエンハンサー)やイントロン領域に位置する変異。
遺伝子のスプライシングや転写の効率に影響を与えることがあります。


〔 SNPの機能的影響 〕

SNPは遺伝子やタンパク質の機能に様々な影響を与えます。その影響は次のような影響があります。

①遺伝子発現の調節
調節領域に位置するSNPは、転写因子の結合やクロマチン構造の変化を通じて、遺伝子発現レベルを変えることがあります。
②タンパク質の機能変更
非同義SNPはタンパク質のアミノ酸配列を変えることで、その機能や安定性に影響を与えます。
③スプライシングの変化
イントロンとエクソンの境界に位置するSNPは、スプライシングのパターンを変える可能性があります。

〔 SNPの研究と応用 〕

①疾患関連研究
●GWAS
SNPを利用して疾患に関連する遺伝的変異を特定するための研究。特定のSNPと疾患の関連性を見つけることで、その疾患の発症メカニズムやリスク因子を明らかにします。GWASについては、次項でより詳細に説明いたします。
●疾患リスク予測
GWASの結果など特定のSNPの存在が特定の疾患のリスクを高めることが分かっている場合、個人のリスク評価に利用できます。
●機能的研究
特定のSNPの違いが遺伝子機能にどのように影響するか調べることで、疾患の病理学的理解を深め、発症メカニズムを解明するための研究に使用することができます。
②個別化医療

SNP情報を用いて、個々の患者に最適な治療法や薬剤を選定することが可能になります。例えば、薬物代謝に関与する遺伝子のSNPは、薬剤の効果や副作用に影響を与えるため、患者ごとに適切な投薬量を決定するのに役立ちます。

また多遺伝子性疾患のリスク評価や進行予想に影響を与えます。

③進化と集団遺伝学

SNPデータは、異なる集団間の遺伝的多様性を研究するために使用されます。
これにより、ヒトの進化や移住パターン、集団間の遺伝的関係を明らかにすることができます。

ゲノムワイド関連解析(GWAS)

GWASは、特定の疾患や特性に関連するSNPをゲノム全体でスキャンする研究です。疾患を持つ人と持たない人のゲノムを比較することで、疾患のリスクに寄与する遺伝的変異を特定できます。

GWASは、大規模なコホート(母集団)からDNAサンプルを収集し、高スループットのジェノタイピングを用いて数十万から数百万のSNPを解析します。
その結果、GWASによって高血圧や糖尿病に関連する多くのリスク遺伝子座が特定されております。このようなGWASによって特定された各遺伝子座の疾患に対する寄与は小さいものの、これらが集積することで多遺伝子性疾患の発症に寄与しています。

連鎖解析

連鎖解析は、家系内のマーカー遺伝子(SNP)の遺伝パターンを調べることで、遺伝地図を作成して疾患の原因遺伝子を特定する方法です。

●原理

精子や卵子が作られる際の減数分裂では、相同染色体間で遺伝子の組み換えが起こります。
物理的に近い位置にある遺伝子の組み換え頻度は離れている遺伝子よりも低く、一緒に遺伝する傾向が高くなります。
この頻度を元に遺伝子間の距離を推定して遺伝子地図を作成します。
そこからより近くの(一緒に遺伝する傾向がより高い)マーカー遺伝子見つけて原因遺伝子を絞り込んでゆき、最終的に原因遺伝子を特定します。

多遺伝子性疾患への応用: 連鎖解析は主に単一遺伝子疾患に使用されますが、多遺伝子性形質に寄与するゲノム領域を特定するのにも役立ちます。
ただし、解析が複雑になるため、多遺伝子性疾患などの複雑な遺伝形式を示す疾患に対してはGWASほど効果的ではありません。

メンデルランダム化

メンデルランダム化は、観察研究でリスク因子と疾患の因果関係を推測するために遺伝的変異(SNP)を使用する手法です。

●概念
薬剤の効果を調べるような場合であれば、ランダムに薬剤を投与した群としなかった群に振り分け、薬と治療成績の因果関係を晃家にすることができます。
しかし多遺伝子性疾患は、環境と遺伝的要因の両方に影響されるため、特定のリスク因子と疾患の因果関係を調べることが困難です。
そこで遺伝子が親から子へ無作為ランダムに分配されることを利用し、リスク因子と疾患の因果関係を推定します。
これは臨床試験のランダム化プロセスを模倣しています。
●応用
観察研究で見られる関連が因果関係であるかを明らかにするのに役立ちます。
例えば、高い体重指数(BMI)が糖尿病の原因である因果関係を推定する場合を考えます。まずのか、糖尿病とは関連しないがBMIと相関のある遺伝子(SNP)を見つけます。
この遺伝子を有する割合と糖尿病の割合を評価することで因果関係を推定できます

統合的アプローチ

現代の研究では、SNP解析、GWAS、連鎖解析、メンデルランダム化を組み合わせて、多遺伝子性疾患の包括的な理解を目指しています。
これらの統合的アプローチは、疾患の遺伝的構造を解明し、潜在的な治療ターゲットを特定するのに役立ちます。
その結果症状に対する対症療法ではなく、原因となるターゲットを標的とした治療を目指しています。

まとめ

高血圧や糖尿病などの生活習慣病は、多遺伝子性疾患は遺伝と環境の複雑な相互作用を示しています。
SNP解析、GWAS、連鎖解析、メンデルランダム化といった先進的な遺伝学研究技術は、この複雑性を解き明かす強力なツールです。
これらの疾患を分子レベルで理解することで、個々の遺伝子構成に基づいた個別化医療への扉が開かれます。

多遺伝子性疾患の深淵を探ることで、人間の健康と疾患の驚くべき複雑性を理解し、遺伝学および環境要因の継続的な研究と革新の必要性が強調されます。


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