受精卵(胚)の検査

受精卵(胚)の検査

受精卵(胚)の検査

受精卵(胚)の検査は、生殖補助医療(ART 体外受精とその関連技術)の一環として行われます。主な目的は、着床率が高い胚や、健常児出生に至る可能性が高い胚を選ぶことです。
具体的な方法はいくつかの種類があります。

種類

  1. 染色体の検査
    • 着床前染色体異数性検査(PGT-A: Preimplantation Genetic Testing for Aneuploidies)
      PGT-Aは胚の染色体の数的異常を調べる検査です。着床前スクリーニングとも呼ばれています。
      染色体数に異常がある胚は着床の可能性が低く、着床した場合は流産や先天性疾患の可能性が高いことが分かっています。この検査で染色体数に異常がない胚を選んで移植することにより、妊娠出産の可能性が高まることが期待できます。
      性染色体の数も分かるので、産み分け目的で行うこともあります。
    • 着床前胚染色体構造異常検査(PGT-SR: Preimplantation Genetic Testing for Structural Rearrangements)
      PGT-SRは染色体の構造異常を検出する検査です。染色体の欠失や重複などの異常を特定することができます。
  2. 遺伝子の検査
    • 着床前単一遺伝子検査(PGT-M : Preimplantation Genetic Testing for Monogenic)PGT-Mは、胚が特定の疾患遺伝子を持っているかどうかを調べる検査です。着床前診断とも呼ばれています。不妊治療を受けるカップルが重篤な遺伝性疾患に罹患している、あるいは保因者であることが分かっている場合に行います。

プロセス

  1. 胚作成
    排卵誘発・採卵を行い、体外受精や顕微授精にて受精させ、培養して胚を作成します。
  2. 胚生検
    胚の細胞を採取します。一般的には胚盤胞(培養5~7日目の胚)の栄養外胚葉を検査に用います。
    ※栄養外胚葉:TE細胞(trophectoderm)。将来胎盤になる部分。
  3. 解析
    採取した細胞の染色体や遺伝子の情報を解析し、異常の有無を調べます。
  4. 移植胚の選択・融解胚移植
    染色体や遺伝子の異常を認めない胚を選んで胚移植に進みます。

メリット

  • 着床率の向上:染色体異常がない胚を移植することで、着床率が高まることが期待できます。
  • 流産率の低減:初期流産の多くは胚の染色体異常が原因です1)。染色体異常がない胚を移植することで、流産のリスクを減らすことができます。
  • 遺伝性疾患の予防:PGT-Mの対象の疾患遺伝子を持つ胚の移植を避けることで、児にその疾患が遺伝することを防ぐことができます。

課題

  • 胚への侵襲の可能性:胚発育に悪影響を及ぼさない範囲で細胞を採取するので殆どの事例では問題はありませんが、胚のダメージを完全に否定することはできません。
  • 費用:保険適用はなく、一般的な検査に比べると高額です。一部の自治体では助成事業の対象となる場合もありますが、まだ限定的と言わざるを得ないのが現状です。
  • 検査の限界:胚の一部分を使って検査するので、検査に用いなかった部分に異常があった場合は、それを検出することができません。一般的な方法であるTE細胞を用いたNGSの結果は高い確率(約90%)で胚全体を反映していますが2)、検査結果と出生する児の核型が一致しないこともあり得ます。

受精卵(胚)の検査は不妊治療における重要なツールであり、妊娠・出産の可能性を高めるだけでなく、遺伝性疾患に苦しむカップルがお子様を望む際に大きな希望をもたらします。

受精卵(胚)の検査を取り巻く環境のさらなる進展とともに、より多くのカップルがこの技術の恩恵を受けられるようになることを期待しています。

  1. https://www.jaog.or.jp/note/1%EF%BC%8E%E7%B7%8F%E8%AB%96/
  2. Molecular Human Reproduction, Volume 24, Issue 12, December 2018, Pages 593–601, https://doi.org/10.1093/molehr/gay043 Figure 1 The types of concordance and non-concordance between trophectoderm (TE) and the inner cell mass (ICM) observed in the study.